旅行の楽しみというものは、帰宅し日常生活を全て取り戻してこそ、完結するものなのだとシミジミ思う。若い頃は海外旅行も度々したが、帰りの飛行機から日本語の看板を見るときが一番ほっとしたものなぁ。
家事をするときやクルマの中で、よく桂枝雀の落語を聴くのだが(ナマで聴いたことはない。残念だ!)、彼の口癖が「緊張の緩和」。まず緊張があって、それが緩和されるときに、笑いや快感が生じるのだというのが持論のようだ。
旅行もまさにそれで、出かける、知らない土地に行く、という緊張の後に、帰宅する、我が家で寛ぐという緩和がある。逆にリゾート目的の旅行なら、仕事などの日常における緊張を、温泉や宿で接待を受けることで緩和する、いずれにせよそれらがセットでなければ、楽しいもヘッタクレもないわけだ。
ホテル併設のペットショップが火曜日定休なので、愛猫ジジの引き取りは今日になってしまった。超ど級の臆病猫なので、店員さんが檻から出そうとしても敵意丸出しで隅っこで身を縮め、動こうとしないので、「飼い主さん、お願いします」と呼ばれて、私が檻から出すことになった。
…って、私、赤ちゃん連れているんだよ。どーしろっていうのよ。
(若くない)女性なら気を利かせて、「赤ちゃんを(カートに乗せたまま)見てます」とか「抱っこしてます」とか言ってくれるかもしれないけれど(手は動物を触ったりしているから、抱っこは困るけどね)、生憎若い男性店員で、私が次女を左手に抱えて、右手で猫を檻から引っ張り出し、籠に入れるのを横でぼんやり見ているだけ。私が次女と猫籠を持って通路を歩き出しても、後ろからついて歩いてきていて、促されるまでドアを開けることも思いつかない。しょ~がないけど。
ジジは、ずっと鳴きっぱなしだった。
よしよし。ごめんよ。もう大丈夫だからね。
お家に帰ろうね。
帰宅してもしばらくは、ニャーニャー鳴きながら家中をウロウロしていた。そしてようやく落ち着きを取り戻したか、餌を食べ始めた。
彼がこの“緊張の緩和”に、快感を感じたかどうか、猫ならぬ身には知る由もないが、愛猫が帰ってきたことで、私にとっての“楽しい旅行”が完結したのだと思った。
……あ、違う! 明日、旅先から宅配便で送った衣類が届くんだった。
とほほ、あれを全部洗濯しなきゃ、旅が終わったとは言えないわ。